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領域代表メッセージ

前田 和彦
東京工業大学
これまでの無機材料の研究は、金属酸化物に代表されるカチオンの科学と、複合アニオン化合物の研究で花開いたアニオンの科学を中心に展開されてきました。それによって生まれた革新的な無機材料によって、我々人類社会が受けた恩恵は計り知れません。カチオンの科学もアニオンの科学も、球体近似が可能な原子(イオン)を自在に操り、新たな結晶構造や組成を生み出して所望の物性や機能に繋げるという点で共通しています。本学術変革領域では、こうした従来の単原子イオン中心の無機材料セラミックスの研究とは異なる方向性として、複数の原子が共有結合で繋がった分子性ユニットを含む無機材料を超セラミックスと定義し、新しい材料設計学理の構築を目指しています。
超セラミックスに含まれる分子性ユニットは異方性を有し、それに起因した「向き」「配列」「動的特性」といった新しい自由度を生み出します。その結果、様々な物性・機能の創出が期待できます。しかし、超セラミックスに関係した研究は散発的で、材料開発のコアである「合成」、「解析・理論」、「物性・機能」のどれをとっても、わかっていないことがたくさん存在します。特に、超セラミックスの研究では固体系と分子系の科学者(たとえば固体化学と錯体化学)の連携が大事になりますが、こうした研究者間の交流も現状では十分とはいえません。
我々の「超セラミックス」領域では、異分野に属する研究者を結集して、合成、解析・理論、物性・機能という3本柱の研究体制を組むことで、各研究者が連携しながら超セラミックスの材料設計の基礎学理を構築します。5年間の研究で革新的な物性・機能の新鉱脈を発掘し、一般社会の要請にも応える新材料を生み出したいと考えています。そして、この領域から次世代の無機材料化学を担う世界トップレベルの人材を多数輩出します。
我々の研究組織の特徴は、30歳台から40歳台半ばの若手層を組織の中枢に配置して研究に勢いを生み出すことと、経験豊富な中堅・シニア層が組織に安定感をもたらすことにあります。領域に参画する若手(学生を含む)からシニアまで、すべてのメンバーが強く連携しつつ、好奇心を第一に研究を思う存分に展開していった先に、まだ見ぬ驚きの発見がたくさん生まれることを楽しみにしています。すべてのメンバーが楽しく研究できる雰囲気を醸し出せるよう、領域代表として努めて参ります。
研究概要
この10年間での発見や技術革新により、既存のセラミックスにある「硬い」「脆い」「均質」といった価値観が変容しつつあります。例えば、電場印加により生み出される分子アニオン含有無機結晶が生み出す優れた二次電池特性や、無機固体と分子の融合により発現する革新的触媒機能や物性など、従来の無機セラミックス材料では実現できない新たな機能物性獲得の可能性が見えてきました。
本研究領域では、無機材料に分子性のユニット(分子イオン、錯体、クラスター等)を組み込んだ物質群を「超セラミックス」と定義し、幅広いバックグラウンドをもつ研究者が結集した分野横断的研究により、革新的な物性・機能を有する新材料を創製します。これにより、無機材料を中心とした材料科学の学術体系を大きく変革・転換させることを目指します。本研究領域では、研究対象とする超セラミックスを分子性ユニットの組み込み方の違いにより「内圏型」と「外圏型」の2種類に分類し、両タイプの新材料を創製します。

内圏型超セラミックスとは、無機結晶の格子内に分子イオン種を含む新材料のことです。結晶中の狭い空間での強い電子的相互作用に基づき、従来型の分子イオン含有材料では生み出せない新たな物性や機能の創出が期待できます。外圏型超セラミックスでは、無機材料表面の特定の位置に機能性分子を配置することで、無機材料や分子単独では有さない構造・形態および電子状態を新たに作り出すことができます。従来の有機―無機ハイブリッド材料とは異なり、結晶表面あるいは界面からの摂動を最大限活用し、物性変調・機能改変へと繋げる狙いです。
本学術変革領域研究では、計画研究をA合成、B解析・理論、C物性・機能の三本柱の体制とし、AからCにはそれぞれ2つの異なる研究班を配置しました。超セラミックスの合成を担うA班では、A01が新規合成技術の開拓、A02が次元・形態制御を基盤として相互の要素技術を提供しあいながら、新物質合成に挑みます。これにより、将来の実用へとつながる超セラミックスの設計概念、方法論を確立します。B01班では、超セラミックスが作り出される合成の現場や、機能材料として動作する様子を直接観察することで、合成や機能の研究に新たな知見をもたらします。B02班は、第一原理計算による化学状態解析や情報科学的手法を駆使して物質開発を加速させる役割を担います。これらの実験と理論の協働により、超セラミックスの合成と物性機能創出の研究を加速させます。C班では、材料の形・界面を操ることで物性・機能を引き出し、社会を支える新材料創出のための学理構築を目指します。C01班は主として材料の相や形の制御に立脚した新物性開拓を目指します。C02班はセラミックスと分子の融合系において生まれる光電機能・バイオ機能をターゲットに研究を展開します。